父が亡くなり、相続人であった私(長男)と母と弟(次男)は、弟が母と同居し老後の面倒を看ることを条件に、その相続財産の大部分を弟が相続する、という内容の遺産分割協議を行いました。
しかし、母と同居をしていた弟は、母に虐待を繰り返し、十分な扶養をしません。母は施設へと追いやられました。
そのような状況ですので、一度成立した遺産分割協議を解除してやり直したいと考えていますが、可能でしょうか。
  

原則として、困難です。
遺産分割協議書に、「弟が母の扶養を十分に行わない場合は遺産分割協議をやり直す」などの条項が設けられているか、弟が遺産分割協議の解除に合意をしたとき等でなければ、一度成立した遺産分割協議書の効力は失われません。
もっとも、相談のケースの場合、母が弟に対して、債務不履行を理由として自身の扶養をするように、と請求することは可能です。
  

解説

相談のケースのように、相続人の一人に負担を課すことを条件として、その相続人に有利な内容の遺産分割協議をしたものの、その相続人が約束通り負担を負わない、ということはよく見受けられます。
しかし、そのような場合でも、一度有効に成立した遺産分割協議を解除することができることとすると法的安定性が著しく害されること、遺産分割協議は協議の成立とともに終了し、あとは相続人間での負担の内容に応じた債権債務関係となっているにすぎないことを理由に、最高裁判所は遺産分割協議の解除を認めませんでした。
もっとも、負担を約束通り果たすか不安で「母に虐待したときは遺産分割協議をやりなおす」などの条項を遺産分割協議書に事前に盛り込んでおけば、解除権が遺産分割協議に留保されていたことになりますので、当該解除権を行使して、協議をやり直すことが可能です。
また、一度有効に成立した遺産分割協議も、当事者の合意があるのでれば解除をすることは可能ですので、弟が合意をするのであれば遺産分割協議をやり直すことは可能です。しかしながら、自身の取り分が減る、ということになりますので通常は真摯に合意をすることは期待できません。解除の合意書に署名があったとしても、「だまされて署名させられた。遺産分割協議の解除なんて応じていない」と弟が主張し、後ほど紛争になることが予想されます。ですので、解除の合意を取り付ける際にはちゃんとした合意書に自由意思に基づいて署名をもらうようにする等、紛争の予防に向けた慎重な態度が必要でしょう。